母がようやく持った趣味

母は結婚する前、手描き友禅の仕事をしていた。
昔から芸術が好きだった母である。
絵を描くことが好きで、実際日本画を習っていたこともあったという。
結婚してからは喫茶店やスーパーなどでパートの仕事をし、将来落ち着いたらまた絵を習いたいと常々言っていた。

私も兄も成人して数年が経ち、母はようやく昨年から趣味を持つようになった。
トールペインティングの教室に通うようになったのだ。
いまだに週5日パートに行っているため、趣味に割ける時間はあまりないが、週1日教室に通い、自宅でも少しずつ作品作りをしている。
母の作る作品は素敵だ。
近所の本屋の奥さんがずっとトールペインティングをしているらしく、本屋の棚に飾ってあるのだが、正直に言うと母の作品の方がずっと良いと思う。
昔、絵に関わる仕事をしていたのもあるのだろうか。
私の自宅は一戸建てに引っ越してきて2年近くになるのだが、表札をまだ作っておらず、母にトールペインティングで表札を作ってくれるように頼んだ。
時間はかかったが、白い花の描かれた、とても素敵な表札が出来上がった。
ホームセンターなどで作ってもらえるデザインの決まったものではなく、世界でたった1つの表札である。
とても嬉しかった。
インターネット上のオークションで自作のトールペインティングの小物を販売している人がいて、実際それに入札があった。
その事実を知って、私の母のトールペインティングは、趣味だけにとどまらず、ちょっとした仕事にしても良いんじゃないだろうかと思った。
それを実際に母に言ったことがある。
しかし母は、趣味だからこそ楽しいのだと笑って言った。
確かにそうかもしれない。
とにかく、今まで苦労してきた母が、そうやって趣味を楽しんでくれるのが私も嬉しい。